貧困ジャーナリズム大賞2012
貧困ジャーナリズム大賞
朝日新聞被曝隠し問題取材班(代表:佐藤純)原発労働に関する一連のスクープ 「線量計に鉛板、東電下請けが指示 被曝偽装」など
東京電力福島第一原発の構内で、事故収束作業に日々従事する約3000人のうち9割が、東電社員ではなく「協力会社」と称される下請け会社の作業員たちだ。彼らが多重下請け構造の末端で不安定かつ危険業務に従事させられている実態は、事故直後から一部では報じられてきた。だが、線量計を鉛のカバーで覆う「被ばく隠し」を作業員に強いる、それを拒否した作業員は職を追われるといった原発労働の過酷な現実を、企業名や具体的な会話のやり取りを示すことで生々しく読者に伝えた今回のキャンペーン報道の説得力は計り知れない。深刻な労災事故や反社会勢力の介入を招きやすい「偽装請負」の問題や、こうした構造を指摘した学者の主張を、「原子力ムラ」が総力を挙げて圧殺する姿の活写など、今回の件をごく一部の問題会社の話だと逃げることを許さない点も見逃せない。構造問題ととらえ視野は広く、かつ徹底して細部の事実へと肉薄する。取材班の見識の深さが伺える。
貧困ジャーナリズム特別賞
遠藤 大輔 (映画監督、VJUビデオジャーナリストユニオン)ドキュメンタリー映画「渋谷ブランニューデイズ」
実に2年以上にわたる取材と撮影に基づく大作。野宿者の過酷さを増す生活がテーマだが、地下駐車場の封鎖という困難に立ち向かう姿が輝いて見えた。窮地に追い詰められる中で、主人公の宮沢さんの交渉によって炊き出し中止勧告を撤回させたのは圧巻。
貧困ジャーナリズム特別賞
城 繁幸 (コンサルタント)J-CASTニュース 会社ウォッチ「ザ・シミュレーション生活保護2030」
有名芸能人の母親が生活保護を受給していたことが大きな社会問題になったとき、「いま何が進行しているのか」を、ネット上で批判している人たちに届く言葉で書いた秀逸な逸品。城氏はジャーナリストではないが、ジャーナリストや学者には書けない、きわめてジャーナリスティックな仕事。読んだとき「そう!こういうのが必要なんだよ」と膝を叩かせてくれた。
貧困ジャーナリズム賞
小野木 康雄 (産経新聞 京都総局)「シリーズkaroshi 過労死の国・日本」
「karoshi過労死の国・日本」は、tunami同様に国際的に通用する日本語であるkaroshiが、今も生み出されている現状を克明に伝えた。大震災後の全国の自治体による復興支援や「フクシマの英雄」と呼ばれた原発事故対応などの“美談”の「陰」にある過労死。テレビ放送のデジタル化という今日的な作業の「陰」に隠された過労死。それらを掘り起こし、国際的な視点を随所に織り交ぜ、「現在」「日本」「世界」というプリズムから光を当てる。そのセンスの良さは抜群で、記者の執念ゆえの稀有な報道活動として評価したい。
貧困ジャーナリズム賞
青山 浩平・宮脇 壮行 (NHK)「ハートネットTV 貧困拡大社会」
フリーターの若者や子どもの貧困について、当事者に取材し、貧困拡大のメカニズムを、個人の資質ではなく、その個人を取り巻く社会の側の要因から明らかにしようとする番組。親の離婚や失業、本人の病気などをきっかけに、本人の努力や意志ではどうしようもなく、貧困に陥ってしまった当事者たちの経験を丁寧に取材している。初期の段階で外部からの支援さえあれば貧困に転落する過程を食い止めることができたであろう事情も描かれ、ひとたび貧困に陥った人たちへの支援のあり方も、現場に即して示されている。ややもすれば「自己責任論」が受け入れられてしまう現状があるからこそ、全国に放送網を持つNHKが、個人的努力では抗えない貧困拡大の仕組みを示す番組をつくる社会的意義は大きい。
貧困ジャーナリズム賞
横内 郁麿、田村 峻一郞 (札幌テレビ)「心なき福祉 札幌・姉妹孤立死を追う」
40代の姉妹が遺体で見つかった。暖房もない、真冬のアパートの一室で。姉が病死した後、知的障害のある妹が凍死したとみられている。家賃や国民健康保険料を滞納、ガスも止められていた、通帳残高わずか3円。息が詰まるような困窮のなかで、姉は生活保護の窓口に3回も足を運んでいた。しかし申請書は渡されず、行政から受け取ったのは1週間分の非常食のパンだけ。「働けますね、と追い返された」。姉は生前、そう語っていた。本当に助けが必要な人に届いていない。「心なき福祉」の実態を、きめ細かな取材で浮き彫りにした。人気芸人の母親が受給していたことをきっかけにした生活保護叩き。家族責任を強化し、利用のハードルをさらに高くする。そんな「改革」が声高に論じられる。バッシングで溜飲を下げたその先に、何が待ち受けているのか。姉妹の孤立死を検証したこの番組は、この国の福祉改革の危うさに、静かな警鐘を鳴らしている。
貧困ジャーナリズム賞
田中 龍作(ジャーナリスト)Webニュース「田中龍作ジャーナル」
ジャーナリズムの基本は現場に足を運ぶことである。当たり前の事だが、現場での取材が真実に近づく第一歩だ。だが、近年、ジャーナリズムの現状は、人員削減や労働強化が進む中で、現場が忘れられつつある。そうなると、報道する、しないの判断は安易なものになる。例えば、1万人のデモなら報道するが200人のデモなら報道しない。例えば、名の通った団体なら報道するが、無名の市民団体なら報道しない。現場を抜きにされる判断は心許ない。そうした現状を見るとき、「田中龍作ジャーナル」は輝きを増す。どんな小さな声も聞き逃すかとばかりに、数多くの運動の現場に出向き、その声を伝える。貧困や平和の問題でのおびただしい数の情報発信が彼の〝流儀〟を現している。さまざまな現場に彼がいて、情報が発信される。そのことは多くの行動者を励まし、小さな、けれど大事な当事者たちの声を伝えてくれている。
貧困ジャーナリズム賞
高橋 美佐子、杉原 里美 (朝日新聞社)「孤族の国4 女たち」
女性の貧困は見えにくい。男性の扶養が前提になっているため、女性は低賃金でも「貧困」とはみなされずにきたからだ。こうした安全ネットが働かない層の拡大を、1面と企画記事によって社会問題として押し出し、「貧困女子」の流行語まで生み出した点は画期的。