貧困ジャーナリズム大賞2013
貧困ジャーナリズム大賞
風間直樹、西村豪太 (週刊東洋経済 記者)「ユニクロ疲弊する職場(週刊東洋経済 3/9号)」
急成長を続けるユニクロ。その新卒社員の3年内離職率は5割前後に達し、サービス残業が常態化。うつ病など精神疾患による休職率も高い。大手メディアがほとんど報じてこなかったグローバル企業の実像に、徹底した現場取材で切り込んだ。ユニクロが文芸春秋を訴えた裁判が続くなか、訴訟リスクも念頭にあったはず。それを乗り越え、ユニクロと日本陸軍との「奇妙な類似」など本質的な指摘にも踏み込んだ。見識を高く評価したい。
貧困ジャーナリズム特別賞
東郷雄多、村井弦、白川遼太郎 (週刊文春 記者)「ワタミに対する『ブラック企業』追及のキャンペーン報道」
過労自殺者を出したワタミフードサービス。創業者が書いた著作物や手帳を給与天引きで購入させ、「ボランティア」としての研修を受けさせるなどの実態を鮮やかに暴いた。ワタミグループ企業の介護や教育分野での問題や創業者の選挙出馬での違反を次々に追及。
雑誌ジャーナリズムならではの執念を感じさせた。
藤澤浩一、本木一博(NHK ディレクター)
「NHKドラマ10『シングルマザーズ』」
ドメスティック・バイオレンス被害の実態をリアルに伝え、身体的暴力だけでなく精神的な被害がDVから逃げたあとも継続する状況を社会に知らしめた。
シングルマザーが安定した仕事につけないことや住居・保育所探しなどが困難なこと、さらに職場でも差別を受け続けるという貧困の状況を克明に伝えた。
また実話に基づいて、当事者同士のネットワークが大きな支えとなり、社会や国会を動かす可能性を描いた点でも大きな意義があった。
児童扶養手当削減に反対する母親たちが署名を呼びかけるシーンは感動的。
貧困率50%以上という母子家庭の暮らしを当事者目線で伝えた画期的なドラマだった。
白井康彦 (中日新聞 編集委員)
「生活保護基準切り下げにおける、厚労省の消費者物価指数引用に関する一連の報道」
生活保護基準切り下げにおいて、厚生労働省が理由として挙げた、「消費者物価指数(CPI)」の下落の恣意性をスクープ報道。CPIの下落に寄与したのは、パソコン、ブルーレイレコーダーなど家電製品で生活保護世帯がほとんど所持しないものばかり。
「消費者物価指数(CPI)が大幅に下がったから生活保護基準を下げた」という理屈が、実は生活保護世帯に当てはまらないことを実証した。他にも不自然な数字の操作を発見し、それを新聞記事だけでなく、雑誌論文などでも問題提起を行ったのは見事だった。
貧困ジャーナリズム賞
佐藤仁志、迫田朋子、伊豫部紀子、一條淑江、久保暢之(NHK)「NHK『あさイチ』の『サイレントプア 声なき女性の貧困』(2012/11/5放送)」
じわじわ広がる女性の貧困の実態を報道した。40歳を超えて働き口がなく性風俗で働くシングルマザー。30代の短期派遣の女性は無料サンプルで食費を浮かせる。夏休みは収入がなくなる非正規教員の問題など、女性の貧困に多様な角度から光を当てた。ETVの「ハートネットTV」と連携した取材の成果を朝の人気番組で特集、社会に大きなインパクトを与えた。視聴者の声も交えたスタジオの進行で説得力ある番組になっていた。
加藤隆寛(毎日新聞 記者)
「『脱法ハウス』を巡る一連のキャンペーン報道」
「脱法ハウス」を巡る一連の報道は、建築基準法や消防法に違反する〝住まい〟が堂々とまかり通っていることを告発した。もちろん、なぜ、そうした違法な住まいが準備され、必要とする人がいるのかにも面から光を当てた。背景には低賃金の仕事が広がり、住居を確保できない人々がいる。働く貧困、住まいの貧困を浮き彫りにし、社会に問いかけた。住宅問題を所管する国土交通省も、実態調査と対策に動かざるを得なくなった。住まいの貧困問題に取り組むNPOとも連携して記事を出稿しており、今後の報道にも期待したい。
澤路毅彦 (朝日新聞 編集委員)
「有期雇用をめぐる法改正の問題点についての一連の報道」
有期雇用問題は、日本の非正規雇用問題の中心的な問題のひとつである。今回の労働契約法の改正によってどのように変わるのかを、似ている法律がすでに施行されている韓国の実態を取材をするなど、問題点をていねいに取材した功績は大きい。有期雇用労働者が使い捨てにされることによって貧困に陥っている現在、こうした報道は貴重だった。
西井泰之以下、「限界にっぽん」取材班 (朝日新聞)
「『追い出し部屋』を巡る一連の報道」
パナソニック、ソニー、日立製作所。日本の「ものづくり」を牽引した大企業に、「追い出し部屋」と呼ばれる部署が広がっている。単純作業を命じられ、転職先探しを強いられ、疲弊していく「社内失業者」たち。見えない「解雇」の実態を、緻密な取材で明らかにした。こうした現実を、私たちは「明日は我が身」と受け止めるほかないのか。一連の連載は、この国の雇用劣化の深刻さを生々しく突きつけた。
加藤紗千子 (広島テレビ放送 記者)
「NNNドキュメント『名ばかり実習生 ~外国人実習制度の光と影』(6/30放送)」
広島県江田島市で水産会社の社長が中国人実習生に殺害された事件をきっかけに、外国人技能実習制度を利用して来日して働く実習生に光を当てた。企業は安く労働力を確保したいというのが本音、実習生も出稼ぎが目的という実態。広島県名産のカキの養殖現場で働く労働者は大半が中国人の実習生という現状は衝撃的だった。各地で起きているトラブルもあぶり出す丹念な調査報道だった。
前田輔 (九州朝日放送 記者)
「テレメンタリー『生活保護はどこへ行く』(8/19放送)」
2013年8月から減額された生活保護の生活扶助費。生活保護を受けている人たちは深刻な打撃を受けている。一人暮らしの老人を中心に検証したほか、数年前に生活保護をめぐる餓死事件が相次いだ北九州市の現状を取材。安倍政権での迷走する生活保護制度の現状をしわ寄せを受ける生活弱者の立場で描いた。
ドキュメンタリー「助かるもんも助からん」以来、生活保護問題を告発し続ける同局のジャーナリスト精神をたたえる。
小林美希 (ジャーナリスト)
「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」
子供が生まれるということが喜ばれない職場環境が広がっているという指摘を続ける。そうしたなかで「妊娠解雇」「職場流産」といった悲惨な実態が広がっていることを告発する。職場環境のあり方に鋭くメスを入れ、「子供を産ませない社会」が成立していることに警鐘を鳴らした功績は大きい。
堀切さとみ (映画監督)
「ドキュメンタリー映画「原発の町を追われてー避難民・双葉町の記録―」
福島県双葉町の町民が集団避難している、埼玉県加須市の元高校の避難所を長期にわたって取材した映像作品はほかには存在しない。避難者の困窮と苦悩に寄り添いながら映像作品としてまとめられたことにより、私たちは現在の避難者の困難と苦悩を知ることができる。市民ジャーナリストの貴重な仕事であり高く評価したい。