貧困ジャーナリズム大賞2015

貧困ジャーナリズム大賞

東京新聞 我那覇圭(政治部)、林 朋実(社会部)
「シェアハウス居住で児童扶養手当を支給されない問題」についてのキャンペーン報道
シェアハウスに住むシングルマザーが同じ家に独身男性と「事実婚」とみなされ、児童扶養手当などの支給が停止されるという事件の報道。貧困にさらされている人々への施策には、差別や排除の因子が様々に埋めこまれており外から分かりにくい。この「シェアハウス事実婚問題」もその一つである。記者らは30数年前の「事実婚」通知による運用の問題であることをつきとめ、その後の厚労省の対応を報道し続けた。実態調査を行った厚生労働省はシェアハウスや偽装離婚と思われて支給されていないケースにも支給を認める新通知を出した。行政の施策の改善、過去の救済策まで追及をゆるめなかった点でジャーナリズムの使命を果たしたと言える。

貧困ジャーナリズム特別賞

柏木ハルコ(漫画家)
漫画『健康で文化的な最低限度の生活』小学館「ビッグコミックス」
大学を卒業したばかりの女性が福祉事務所で新人ケースワーカーとして奮闘するマンガ作品。よく取材されていることが一読してよくわかる。生活保護の利用者の生活背景もうまく描いている。その家族関係や心情などもマンガ作品として描かれることによって、読者が複雑な背景を理解しやすくなっている。福祉行政に関わる人たちも描かれており、福祉行政として問題のあることなども描くことによって解決すべき課題を浮き彫りにしようとしていることも評価できる。「健康で文化的な最低限度の生活」と正面から憲法25条の生存権をタイトルに掲げているところからもわかるように、著者の姿勢は一貫して人権を守る立場から貧困の問題を生活保護を描くことで追及しようとしている。こうした課題をエンターテイメントして人気漫画として成功させていることには敬服する。

貧困ジャーナリズム賞(6作品 以下、順不同)

井戸まさえ(NPO代表)、上田真理子(NHK)、天川恵美子(NHK)、福田和代(NHK)
『クローズアップ現代』“戸籍のない子どもたち”など無戸籍者に関する一連の報道
14年5月21日および15年2月18日のNHK『クローズアップ現代』を中心に無戸籍の子どもの存在について問題提起する報道を重ねた。政府による実態調査や救済対応などの動きにつなげた。背景には夫によるDV問題など「貧困」が根底にあることを確かな視点で伝え、問題解決を探ろうとする姿勢は評価できる。報道のタイミングも他社に先駆けて早く、かつ、無戸籍の子ども自身には責任がなく、子どもへの支援を最優先すべきであるという報道姿勢はこの問題に関するマスコミの見方を先導したといえる。問題の存在を知らせたばかりか、解決に向けた方策に関してもNHKの一連の報道が果たした役割は大きい。

東京新聞 我那覇圭(政治部)
「生活保護で奨学金の塾代支出分を減額」撤回させた一連の報道
生活保護世帯の貧困の連鎖が明らかになっている。本報道は、生活保護家庭の子どもが奨学金を受けて塾費用にあてた場合には収入とみなし、生活保護費を減額するという福島市で起こった事件についての報道。不服申し立てや裁判の報道とともに、その後大阪市で奨学金を受けた場合には塾費用を収入認定しないという運用の差を報道した。生活保護家庭の子どもは大学進学したときには世帯分離され、大学進学の子どもには生活保護受給は認められていない。しかしその前の段階で塾費用が認められない運用は、自立の芽を摘む対応とも言える。結果、厚労省が通知を出し、生活保護の運用ルールを変えることとなった。経緯や背景、運用の差を報道し運用ルールの改定まで追及した記者の功績は大きい。

中島順一郎、西澤祐介、岡田広行、山田泰弘(週刊東洋経済 記者)
週刊東洋経済 (2015年4月11日号)『貧困の罠』特集
大手企業のサラリーマンが自分自身の病気や家族の介護などをきっかけに生活困窮状態になっていくプロセスを具体的に書くことによって読者に貧困を身近なものとして実感させるなど伝え方も工夫されている。高齢者、女性、子育て家庭の貧困、ブラックバイトと苦学生についても具体的にルポと図解・データで説得力をもって伝えている。生活保護制度への誤解について解いていることも高く評価できる。4月からの生活保護制度改悪の影響についても解説。4月から始まった生活困窮者自立支援法についても、その課題についていちはやく指摘・解説した。

伊藤篤(代表者)ほか連合通信 編集部
「労働問題についての当事者目線のきめ細やかな報道」
連合通信は、労働組合や市民団体など各種団体が発行する機関紙・広報紙に労働問題を中心にしたニュースや写真などを提供している通信社だ。市民が直接配信記事に触れることは少ないが、組合機関紙などを通じ、多くの労働者、市民にその情報は読まれている。
徹底して労働者に寄り添い、労働者の視点で多様な労働問題を報じている。労働問題を中心にした通信社だけあって、一般紙が報道しないような細やかな報道が際立つ。国会で審議中の労働者派遣法改正に関しても派遣労働者の声を丹念に拾っている。派遣業界や政治の都合で進む派遣法改正に、当事者でありながら無視され続けてきた派遣労働者の生の声を突きつけ、問題点を指摘し続けている。その報道は読者である労組員、市民に支持され、派遣労働者からの信頼も厚い。派遣法以外でも、長時間労働と過労死やワーキング・プア、ブラック企業問題など働くということを多様な角度から報道を続ける。働く事と貧困の関連に関する報道も長く続け、読者に確かな視点を提供している。同社は、「運動に役立つ正確な情報を早く」をスローガンに掲げる。その報道は、労働運動のみならず、市民運動、反貧困の運動にも大きく寄与している。

熊田佳代子(代表者)ほかNHK『ハートネットTV』取材班
『ハートネットTV』“シリーズ戦後70年”
戦技70年となった2015年。1月に『ハートネットTV』が開始した“シリーズ戦後70年”は、親と暮らせない子どもたち、ハンセン病患者、精神障害者、知的障害者らにとっての戦中・戦後の歴史を丁寧に振り返った。精神障害者に関しては「強制収容」、ハンセン病も「強制隔離」、“精神薄弱者”と呼ばれた知的障害者が戦後しばらく義務教育から外れ、成人になると国による福祉援助がいっさい得られないままだったことなど、過去から現在につながる福祉・医療・教育政策の歴史をわかりやすく伝えた。戦時中に伊豆大島の施設が軍に接収されて行き場を失った知的障害者たちが土地の痩せた山梨の寒村だった清里に疎開した末、栄養失調などで体調を崩して次々に死亡したことやドイツでナチスがユダヤ人大虐殺の前に障害者の虐殺で予行演習していたことなど戦時において障害者が受けた過酷な歴史も紹介した。シリーズの中でも特に「障害者と戦争」は、戦時になると障害を持つ人をはじめ“社会的弱者”が真っ先にしわ寄せを受ける構図を改めて示した。

平 良英(プロデューサー)、岡部統行、山田貴光(ディレクター)
「ガイアの夜明け」”もう泣き寝入りはしない〜立ち上がった“働く若者たち”〜
若者の労働環境が劣悪化していることを伝える報道はたくさんあるが、「ブラック企業」とも言われる企業の横暴に対して声を上げる労働運動/社会運動に関する報道は案外、少ない。本番組は、首都圏青年ユニオン、POSSE。ブラック企業被害対策弁護団などの取り組みを紹介したドキュメンタリーである。個人加盟ユニオンなど具体的な問題解決に向けての声の上げ方を紹介していることは高く評価できる。過酷な労働のなかで苦しむ若い視聴者に希望を与え、励ます番組となっていた。また労働契約法18条の悪用によって若者を使い捨てにしようとしているカフェチェーンの企業側のインタビューを取材し企業のやり口を告発していたことも高く評価できる。

 

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