貧困ジャーナリズム大賞2016

貧困ジャーナリズム大賞

錦光山雅子(朝日新聞)
中学制服代の地域格差の実態を明るみに出した一連の報道
全国の協力者からからSNSを駆使して中学の制服代についての情報を集めるという手法で制服代の現状やメーカー、取扱店の背景を明らかにした。貧困の現状について、調査報道という手法で迫ったのは特筆に値する。
貧困問題報道で、深刻な状況を伝えることでインパクトを与えるという手法の限界も指摘される中、SNSでの調査報道という新しい手法を提示した意義は大きい。

貧困ジャーナリズム特別賞(3作品 以下、順不同)

原昌平(読売新聞)
ヨミウリ・オンライン「ヨミドクター」での「貧困と生活保護」シリーズ
同記者は、世間が注目する以前から「貧困問題」に着目して精力的な報道を行ってきた、貧困の分野で代表的な専門記者として名の知れた存在。
最近は「ヨミウリ・オンライン」の「ヨミドクター」で「原記者の『医療・福祉のツボ』」というコラムにおいて「貧困と生活保護」という連載を続け、最後のセーフティーネットである生活保護について制度論やルポを交えて多角的に伝える報道が光っている。

重江良樹(映画監督)
ドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん』
大阪・西成で貧困家庭の子どもたちの防波堤になっている「こどもの里」を追った映画『さとにきたらええやん』を制作。
「こどもの里」にやって来る子供たち、親たち、スタッフ、地域の人たちの姿をていねいに追っている。「こどもの里」が、さまざまな背景をもった子供たちの居場所になっているだけでなく親たちの居場所にもなっており、地域社会によって支えられていることもよくわかる。こうした場が日本全体に広がることの大切さを観客にストレートに訴える作品である。

りさり(漫画家)
『きみとうたった愛のうた~児童養護施設でくらしたあの頃に~』新書館など、児童養護施設での子どもたちの姿を描いたマンガ作品
児童養護施設についてはステレオタイプ化された描写が少なからず存在している。しかしながら、りさり氏が描く作品には、子ども自身の目線から生き生きとした生活が描かれている。そして、同時に、複雑で繊細な気持ちの動きもていねいに描かれている。子どもの目線から描くことを通じて、結果的に児童養護施設の果たしている大切な役割を読者に伝える作品となっており稀有な作品である。

貧困ジャーナリズム賞(8作品 以下、順不同)

毎日新聞 医療福祉部山崎友記子ほか「ガラスの天井」取材班
連載「ガラスの天井」の第2部「女性と仕事」
同連載は女性が安定した仕事を継続できない事情を詳しく報道しており、第4部「女性と自立」では女性が経済的に自立できない事情を詳しく報道している。一人ひとりの女性の生活に肉迫するルポを通じ、雇用と家族の現状がいかに女性の貧困を生み出しているかをわかりやすく報道した意義は大きい。

吉岡史幸、涌井寛之、新崎真倫(北海道文化放送)
ドキュメンタリー番組『17歳の先生~子どもの貧困を越えて~』
自らも母子家庭で生活保護を受けている札幌在住の女子高生が「子どもの貧困」の切実さを訴えながら、学習支援ボランティアで“先生”を務める日常を追いかけた作品。主人公の17歳の女子高生が清々しく、見ている側に共感を誘う。将来のために「東京の大学に行かせてほしい」と母親に懇願する場面など胸に迫る場面が相次ぐドキュメンタリーは多くの人に見てほしい。

渋谷龍一(労働ジャーナリスト)
『女性活躍「不可能」社会ニッポン – 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』旬報社にまとめられたルポなど、「労働法律旬報」に連載した主婦パートを追った一連のルポルタージュ
主婦パートこそが非正規雇用問題の中心であるとして、非正規雇用を論ずる視覚に重要な問題提起をしている。主婦パートが抱える困難の中でも闘いに立ち上がった事例ルポも貴重である。「丸子警報器主婦パート事件」は、労働判例としては超有名事件であるが、闘った主婦パートの実体としての人間に迫ったルポも貴重である。

真野修一、鈴木伸治、青山浩平(NHK大阪)
『バリバラ』 「生放送 検証!「障害者×感動」の方程式」(8月28日放送)
「愛は地球を救う」ならぬ「笑いは地球を救う」というコンセプト。この時期に放送される障害者を「感動」で伝える「24時間テレビ」のような描写をステレオタイプの「感動ポルノ」として批判的に伝えた。何よりも障害者本人の本音を重視し、単に民放の番組を批判するだけでなく、自らも含めたメディア全体を自己批判した。両方の番組に出演した障害者自身が感動の方程式を「ウソっぽい」と自ら笑い飛ばし、等身大の描き方とは何かを問題提起して大きな波紋を投げかけた。

平田知弘、鈴木洋介、吉田堅一ほか(NHK)
『ハートネットTV』 「緊急報告・熊本地震」(4月18日ほか)
熊本地震の直後に、障害者や高齢者など日常生活で困難さを抱えた人たちの現状がどうなっているかを集中的取材。「音」に敏感な発達障害の子どもを抱える家族やオムツ交換などが必要な要介護老人は避難所にはいられない実態を伝えたほか、行政が指定する「特定避難所」があまり役に立たない実態などを他メディアに先がけて特報。「社会的弱者」の立場で震災後を伝え続けた優れた報道だった。

宮本晴代(TBS報道局「NEWS 23」ディレクター)
利根川心中事件についての『NEWS 23』の特報(6月22日放送)
埼玉県深谷市の利根川で起きた心中事件。認知症が進む母親と、病気で自殺願望を強めた父親と手をつないで川に入り、自殺幇助と殺人の罪に問われた三女について、長女と二女の単独インタビューを元に三女が追い込まれた経緯を振り返った。社会の貧困化が進むなかで起きている悲劇の背景に目を凝らした報道は評価に値する。

鶴谷邦顕、小堀友久(NHK熊本)
ETV特集「つかさ18歳 人生を取り戻したい~被虐待児2年間の記録~」
苛烈な虐待を受けて親元を離れて児童養護施設で暮らす高校生つかさの卒園までの日々を追いながら、児童養護施設の子どもが将来選択で抱える困難さなどを等身大で描いたドキュメンタリー番組。
義父による虐待を止めなかった母親への複雑な思いを抱える主人公が再び母親と同居する場面は感動的だ。虐待で子どもが失ったものの大きさやそれを取り戻すには何が必要なのかを視聴した者に深く、じっくりと考えさせる作品だ。

琉球新報「子どもの貧困」取材班(文化部・高江洲洋子、黒田華、社会部・稲福政俊ほか)
沖縄の子どもの貧困の実態を伝え解決策を考える一連の報道
沖縄県の子どもの貧困はきわめて深刻な状態である。そのなかで、子どもの貧困に焦点をあてて報道を積み重ねたことの意義は大きい。連載「希望この手に」では、沖縄の子どもの貧困状況を多面的に報告し解決にむけたヒントを提示している。また、他の記事において市町村ごとの対策の格差を比較報道していることは重要である。給食費への補助格差、就学援助の基準格差などを具体的に調査報道することを通じて問題の所在をはっきりと示し、問題解決への後押しになる報道となっている。

 

なお、9月23日の表彰式では中日新聞社会部取材班(代表:青柳知敏・社会部次長)による「連載『新貧乏物語』を中心とする貧困報道」に対して貧困ジャーナリズム賞を贈ると発表しましたが、その後、同社から連載のうち二つの記事で事実ではない誤った記述や写真があったことが社内調査で確認されたとして、主催者への謝罪と賞の返上の申し出がありました。
これを受けて、同連載への賞の授与を取り消しました。

 

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