貧困ジャーナリズム大賞2019

貧困ジャーナリズム大賞(2作品 以下、順不同)

NHK 長嶋愛、村井晶子 ETV特集『静かで、にぎやかな世界〜手話で生きる子どもたち〜』(2018年5月26日他)
耳の聞こえない子どもたちに対して、あらゆる授業で日本手話でだけで教える、国内惟一のろう学校・明晴学園の日常を描いたノーナレーションのドキュメンタリー。登場する子どもたちの表情の豊かさには驚かされる。「聴者」の世界と「ろう者」の世界。“耳が聞こえない子ども”と否定的に捉えるのではなく、“目で見る子ども”と肯定的に捉える。「明日から聴者になれる魔法の薬があったら飲みますか?」という取材者の質問に、半数以上の子どもが「飲まない」と答えたことは強い印象を残した。「多様性」が大切だとされる時代、違いがあることが当然という多文化共生のあり方を静かに問いかける力作。

RSK山陽放送 米澤秀敏ほか「ハンセン病」取材班   RSK地域スペシャル「メッセージ」『引き裂かれた家族〜ハンセン病孤児たち 初めての告白〜』(2019年4月10日)、TBS『報道特集』(4月27日)、書籍『ハンセン病取材40年』など一連の報道活動に対して
ハンセン病をめぐっては、国の誤った強制隔離政策によって患者本人ばかりか、その家族の人たちも長い間、差別や偏見による苦痛を強いられてきた。家族が国を訴えた裁判で、2019年6月、熊本地裁が国の賠償責任を認め、翌月、首相が控訴を断念して謝罪談話を発表した。地元・岡山県と香川県に長島愛正園など3つの国立ハンセン病療養所を抱える山陽放送は、40年にわたってこの問題についてテレビやラジオのニュース、ドキュメンタリー、書籍などあらゆる手段を使って会社を挙げて報道してきた。ハンセン病報道を「地方局の使命」だと徹底的にこだわって、報道機関の中でも傑出した根気のある活動を続けてきたことを高く評価したい。

貧困ジャーナリズム特別賞(2作品 以下、順不同)

タレント 中川翔子  書籍『「死ぬんじゃねーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』(文藝春秋)、NHKハートネットTV『#8月31日の夜に。』や朝日新聞等の「生きづらさ」を抱える子どもへの活動に対して
学校でのいじめなどで「生きづらさ」を抱える子どもたちが毎年のように夏休みが終わって学校が再開される時期に自らの命を絶つ悲劇が深刻化している。受賞者はNHKのテレビ番組『#8月31日の夜に。』や著書『死ぬんじゃねーぞ!!』あるいは新聞、雑誌など様々なメディアを通じて、そうした子どもたちの悩みに共感して励ましてきた。辛ければ無理をせずに逃げてもいいこと。学校に行かないという選択もあること。自らのかつての体験も披瀝しながら、誰かに打ち明けて苦しさを軽くする方法があることなどを熱心に伝え続けている。その活動は、貧困問題にもつながる様々な社会の「ゆがみ」を抱える日本で、若者たちや子どもたちに生きる勇気と希望を与えるものである。受賞者にしかできない優れた活動であり、高く評価したい。

安田夏菜  書籍『むこう岸』(講談社)
『むこう岸』(講談社)は、児童文学として貧困状態にある子どもの姿をリアルに描いた稀有な作品である。作品中に出てくる母子家庭の子どもや外国にルーツをもつ子ども、そしてその「対極」にいると一般に考えられている学歴競争の中で苦しむ子どもの双方にやさしいまなざしを向けている。本作では、その子どもたちの交流と貧困状態を少しでもなんとかしようともがく子どもたちに押し付けがましくなく見守り励ます大人たちが登場する。生活保護制度の利用と進学との関係など、最新の情報にもとづいて記述されており、生活保護制度への正確な理解を促しているという点でも特筆すべき小説である。子どものみならず、大人も含めて広く読まれることが期待される。さわやかな読後感を得られる児童文学である。

貧困ジャーナリズム賞(10作品 以下、順不同)

NHK 青山浩平、森下光泰、真野修一 ノーナレ『画面の向こうから〜見えないSOSを追って〜』(2019年6月24日)
愛媛県のある下請け工場で長時間働かされている28人のベトナム人技能実習生たち。SNSでコンタクトを取ると、彼女たちが働いている工場の動画と「助けて」というSOSのメッセージが送られてきた。彼女たちは洋服の縫製の仕事で来日していたにも関わらず、「ノルマをこなさないとベトナムに帰国させるぞ」と脅され、タオルの縫製に従事させられていた。取材班が支援者と共にコンタクトをとり、彼女たちはシェルターに保護されることになった。保護された彼女らは一様に安堵の表情を浮かべていた。
SNSというツールで当事者とつながって取材を進め、ノーナレという手法で作り上げた斬新なドキュメンタリーは、新しいスタイルの調査報道といってもいい。制作者と当事者が共同で作り上げた報道番組。いったんハッピーエンドで終わったかに見えた後のラスト、残された実習生が脳出血で倒れたエピソードは衝撃的。理不尽な業者を暴いても、今の制度ではモグラたたきにしかならない現状を浮き彫りにした。
NHK 乾英理子、熊田佳代子、塩田純 ETV特集『バリバイ一家の願い〜“クルド難民”家族の12年〜』(2019年6月22日)
日本では難民としてほとんど認定されることはなく、“仮放免”という、いつ入国者収容所に収容されるか不透明な中途半端な身分に据え置かれ続けるクルド人家族・バリバイ一家の生活を長期取材した。日本は外国人労働者に門戸を広げる法改正を行ったが、難民についての制度は変更されていない。この5年間で難民の認定率は1%未満。先進7カ国中で日本だけという低い数字だ。一家の男性も理由も明かされることなく、2年以上も入国者収容所に収容された。長期収容で自殺者も相次ぐ入国者収容所。一家の男性も拘禁性うつ病で人格が変わってしまった。さらに小学生の弟まで精神不安定になってきたところまで映像で記録している。収容所から釈放されても、働くことを許されず、医療保険など市民的な権利を剥奪された仮放免という身分で、いつまた収容されるかわからない不安が続く。地元自治体である川口市も「仮放免は長期化を想定していない制度のはず」と疑問を投げかける。日本という国で、人が人として生きていく「人権」が守られているのかをクルド人の子どもたちの姿を通して訴える衝撃作だ。
関西テレビ 柴谷真理子 ザ・ドキュメント『奪われた人生〜ハンセン病患者“人生被害”からの回復〜』(2019年7月11日)
2019年6月末の熊本地裁が国の責任を認めたハンセン病「家族訴訟」の判決。裁判所が“人生被害”と表現した患者家族の苦悩を、幼少期の大事な時間を奪われて親と子の正常な家族関係を築くことができなかった原告の人生を通して丁寧に描いた。当事者でないとわかりにくいデリケートな問題を共感的な取材を通じ、多くの人に伝わる作品にした功績は大きい。ニュースの断片的な放送ではなかなか理解が難しいテーマだが、政府が控訴を断念して、首相のおわび談話を出すことを決めた直後に放送するという報道のタイミングも絶妙だった。
映画監督 信友直子 ドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』
テレビ・ディレクターとして働く作者が、広島県の実家に帰省するたびに出迎えてくれる母親を撮影するうちに、認知症を発症していることに気がつき、症状が進む様子を記録したセルフドキュメンタリー映画。かつて自身が乳がんで闘病していたときも、明るく作者を励ましてくれた気丈な母。その母の認知が揺らいでいく様にも、作者の撮影は驚くほど冷静だ。普段は温厚な父親も、動揺が激しくなって泣き叫ぶ母親を怒鳴りつけるなど、壮絶ともいえる認知症の現場の描写がこれでもかと出てくる。それでも、この映画は超高齢化社会を迎えた現代日本で、誰しもいつかは自分の家族にも降りかかる問題を、等身大で記録したことに大きな意味がある。いざ、身内に同じ問題が起きたとき、誰に頼ることができるのか。実際にどういう制度を利用できるのかもわかりやすく描かれている。
映画監督 土屋トカチ ドキュメンタリー映画『アリ地獄天国』
たたかう労働者を取材対象にドキュメンタリーを作り続けている土屋氏は、ブラック企業の中で苦しむ若者が労働組合に加入して3年間にわたってたたかう姿を映画『アリ地獄天国』にまとめた。とんでもないブラック企業で働く若者が助けをもとめて労働組合に加入するところから追っている本作は、会社の前での街頭宣伝行動や団体交渉、裁判、労働委員会など労働組合であればこそ活用できる場面を追っている。ブラック企業とたたかうというときに労働組合がいかに力になるか、そして労働者をいかに励ましているかということがよくわかる点でも重要である。ひどい労働環境で働かされている多くの労働者を励ます作品である。
巣内尚子 書籍『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社)
技能実習生の劣悪な労働条件・人権侵害についての報道は少なくないが、巣内氏による『奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態』花伝社は、受入国である日本国内での労働環境・人権侵害の実態とともに、送り出し国であるベトナム国内での「送り出し」側で起きていることを詳しく取材されていることが他の報道にはない特長である。「技能実習生」が日本でもベトナムでも「儲かるビジネス」として機能しており、それが深刻な人権侵害や貧困とともに存在し続けているという全体構造がよくわかる。支援運動の現場についてもよく取材している。技能実習制度をめぐる全体状況をあきらかにした最新ルポである。
東京新聞 池尾伸一ほか経済部取材班 連載「働き方改革の死角」
「働き方改革」の陰で進む、貧困を招く働き方の進行を、1面で連載として多角的に取り上げた。働き方改革を労働法制の転換としてだけでなく、派遣社員にも通勤手当が出るとPRされる裏側で時給を引き下げる企業が出るなど、そのからくりを、働き手の貧困と関連付けて報道した点が出色。
朝日新聞 山内深紗子、伊藤舞虹 「児童扶養手当の資格確認」をめぐるスクープ報道
シングルマザーに対する差別的な資格確認については、これまでも関係者の間で問題視されていた。ひとり親支援団体が厚労省に是正を求め、これを受けて通知も出されていたが、なお改善されていなかった。こうした窓口の対応が、支援の申請をためらわせ、親子が孤立感を深めた結果、子どもの虐待死事件や、親の自殺などにつながりかねない。そうした中で、そのような資格確認が実際に行われていることを調査書類の写真付きで新聞紙面で報じたことで広く明るみに出したことで、厚労省の再度の取り組みの背中を押したほか、一線の窓口にその問題性を周知させた役割は大きい。
毎日新聞 中川聡子 「児童扶養手当の資格確認」をめぐるスクープ報道
シングルマザーに対する差別的な資格確認について、「統合デジタル取材センター」の速報性を生かし、新聞など他メディアに先駆けてWEB上に掲載して報道を先導した。新聞離れが進む中で、WEBを通じた貧困報道は大きな役割を担っており、今回もSNSによる関係者・識者の問題提起や、ツイッター上に上げられた確認調書が取材の端緒になった。ジェンダーと貧困に関係した報道は、アクセス数も高く、こうした報道の場を開拓したことが評価された。また、WEBも含めた多様なメディアが同時多発的に報じることで異なる対象読者の関心を呼び起こし、改善へ向けた圧力を生み出す好事例としても注目される。
朝日新聞 清川卓史 「8050問題」をめぐる一連の報道
ひきこもる中高年の子と高齢の親が孤立する「8050問題」を、新聞紙面やネット、ツィッターなどを通じ先駆けて幅広く報道した。「ひきこもり」が広く社会問題化する中で、「最悪なのはニュースのコンテンツとして『ひきこもり』が消費され、社会保障を圧迫するダメ人間という認識が固定化されること」とするなど、その報じられ方そのものが二次被害をはらんでいる点や、標準家族の崩壊と貧困との関係を構造として指摘するなど、立体的な報道姿勢がきわだつ。

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