自民党の生活保護制度の見直し案に関する公開質問状

  • 2012年06月27日
  • 投稿者:反貧困ネットワーク
  • カテゴリー:声明・提言

2012(平成24)年6月18日

御党の生活保護制度の見直し案に関する公開質問状

自由民主党 生活保護に関するプロジェクトチーム
座長 世耕 弘成 様


反貧困ネットワーク    代 表 宇都宮 健児
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
(連絡先)〒530-0047
大阪市北区西天満3丁目14番16号
西天満パークビル3号館7階  あかり法律事務所
電話06-6363-3310 FAX 06-6363-3320
事務局長 弁護士小久保哲郎

 

私たちは,生活保護制度をはじめとする貧困問題の解決を目的として活動している市民団体です。
貴党の「『手当より仕事』を基本とした生活保護の見直し」策(以下,「本見直し策」と言います。)の内容及び根拠について,下記のとおり,公開質問をいたします。ご多忙中にお手数をおかけして誠に恐縮ですが,本年7月9日までに質問に対する書面による回答をいただくとともに,口頭による意見交換の機会をお持ちいただくようお願い致します。
(意見交換の機会については,可能であれば本年7月9日(月)13時~17時の間を希望しますが,何時でもご都合のよい日時をご連絡いただきますようお願いいたします。)。

1 質問事項(総論)
本見直し策の策定にあたって,生活保護利用当事者の意見を聞いたり,実態調査を行うなどしましたか。
仮に,行っていないとすれば,意見聴取や実態調査も経ずに,最後のセーフティネットである生活保護制度の根幹に重大な変更を加える本見直し策を取りまとめることが,何故できるのですか。

2 本見直し策が平成21年12月25日厚生労働省課長通知の撤回を求めている点について
(1)貴党のご主張
「民主党政権下で,生活保護費は25%以上膨らんでいます。
平成21年12月,政府は,生活保護の申請があった場合「速やかな保護決定」をするように地方自治体に通知しました。これが引き金となって,生活保護世帯が増加し,生活保護費は,既に3.7兆円に急増。
この3年間で8,000億円も膨らんでいます。」

(2)
質問事項

①上記課長通知は,「失業等により生活に困窮する方が,所持金がなく,日々の食費や求職のための交通費等も欠く場合には,・・・保護の決定に当たっては,申請者の窮状にかんがみて,可能な限り速やかに行うよう努めること」等,法律上も社会通念上も当然のことを通知しているものと考えますが,貴党は,同通知に法律上又は社会通念上誤った内容が含まれているとお考えなのでしょうか。
仮に,そうであれば,どの点がどのように誤っているとお考えか,ご説明ください。

② 稼働年齢層やホームレス状態にある人々に対する違法な水際作戦を減らす上では,貴党が政権党であった平成21年3月18日付厚労省保護課長通知「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」も大いに肯定的な役割を果たしましたが,なぜこの課長通知については問題視せず,政権交代後の同年12月25日付課長通知のみを問題視するのですか。

③ 私たちは,生活保護利用者の増加は一本の課長通知によってもたらされたものではなく,非正規雇用の増大によるワーキングプアの増加,雇用保険の捕捉率の低下(前失業者中2割程度),年金制度の脆弱性など,生活保護制度の手前にあるセーフティネットが脆弱であるという構造的要因によるものと考えていますが,この点についてはどのようにお考えでしょうか。
また,こうした社会構造は貴党が政権を担っておられた間に形作られたものですが,この点の責任については,どのようにお考えでしょうか。


3 具体策1.「生活保護給付水準の10%引き下げ」について
(1)
貴党のご主張

「東京都の生活保護費は,標準3人世帯で約24万円(月額)となっています。他方,最低賃金で働いた場合の月収は約13万円ほどであり※,国民年金は満額で65,541円というのが実情です。こうした勤労者の賃金水準や年金とのバランスに配慮して,生活保護給付水準を10%引き下げます。

※(試算)東京都の最低賃金840円×8時間×20日=134,400円 」

(2)
質問事項

① 生活保護の給付水準を一律10%引き下げても最低生活費がまかなわれるという理論的及び実体的根拠はどこにありますか。10%という切りの良い数字になったのは,たまたまですか。それとも適当に切りの良い数字をあげたのですか。

② こうした提案をするにあたって,何らかの実態調査は行いましたか。

③ 現行の東京都の生活保護費が標準3人世帯で約24万円(月額)が高額であるという理論的及び実体的根拠はどこにありますか。

④ 3人世帯の最低生活費と1人が働いた場合の最低賃金を比較することにどのような意味があるとお考えですか。

⑤ 国民年金で支給される1人分の金額(満額)が65,541円であるということと,標準3人世帯の生活保護費とを比較することにどのような意味があるとお考えですか。

⑥ 最低賃金額や年金額とのアンバランスは,国民の最低生活保障の観点から最低賃金額や年金額を引き上げる方向で解消すべきと考えますが,生活保護基準を引き下げることとする理論的根拠は何ですか。


4 具体策2.「 医療費扶助を大幅に抑制」について
(1)貴党のご主張
「生活保護費用の約半分は医療費です。生活保護の受給者は窓口での自己 負担がないためモラルハザードや過剰診療が起きています。自己負担導入や医療機関の指定,重複診療の厳格なチェック,ジェネリック薬の使用義務化などで医療費扶助を大幅に抑制します。」


(2)
質問事項

① 生活保護受給者にモラルハザードや過剰診療が起きていると断定する根拠は何ですか。いつどのような方法で実態調査をされたのですか。
むしろ,処方薬依存が一定数予想される精神科に限った4万2197人のサンプル調査(厚生労働省平成22年9月発表)の結果によっても,不適切な受診とされたのが1797人(4.2%)にとどまっていることからすると,全受給者について自己負担制度を設ける根拠はないと考えますが,いかがですか。

② 医療費の一部自己負担制度を導入すれば,仮に償還制を採用したとしても,一時的に最低生活費を下回る生活を余儀なくされることから,生存権を保障した憲法25条違反であると考えますが,この点はどのようにお考えですか。

③ 現在でも受診前に医療券を申請して交付を受ける必要があること,受診できる病院が指定医療機関に限定されていることから,生活保護利用者の受診には事実上の制約があります。そのうえ,医療費の一部自己負担制度を導入すれば,受診抑制による疾病の重篤化を招き,却って医療費が増大することや,生活保護利用者の健康や生命を害することが予想されますが,この点はどのようにお考えですか。

④ 医療費の一部自己負担制度と事後的な償還払い制度を導入すれば,ただでさえ忙しいケースワーカーの事務負担が莫大に増え,本来必要なケースワーク業務に支障が生じることが予想されますが,この点はどのようにお考えですか。


5 具体策3「現金給付から現物給付へ」について

(1)貴党のご主張
「食費や被服費などの生活扶助(食料回数券等),住宅扶助,教育扶助等の現物給付を推進します。現金給付にするか現物給付にするかの判断の権限を自治体に付与します。」

(2)
質問事項

① 生活扶助,住宅扶助,教育扶助等の現物給付とは具体的には一体どのような制度を考えておられるのでしょうか。


支給された生活扶助費のうち,それぞれいくらを食費,被服費,家具什器費,日用品費等に割り当てるかは,世帯によって異なるし,同一世帯でも月によって異なります。また,給料や仕送りなどの収入のある人の場合,支給される生活扶助費の額は各月の収入によって変動します。このように,世帯によって,あるいは,月によって変動する生活扶助費について,具体的にどのようにして現物給付を行うのですか。

③ 生活扶助の現物給付とは,特定の事業者の店舗で使える食料や被服費のクーポン券を検討しておられるのでしょうか。仮に,そうだとすれば,特定の生活保護利用者の自己決定権(憲法13条)を侵害する一方,企業の新たな利権を生む可能性があると考えますが,いかがでしょうか。
のみならず,このような制度を導入すれば,生活保護利用者のうち,多くを占める乳幼児,高齢者,さらには難病やアレルギー・化学物質過敏症などの疾患や障がいのため,食糧に特別のニーズを持つ人たちが必要な食糧を入手できず,生きていけなくなることが想定されますが,いかがですか。

④ 仮に,公営住宅や安上がりの民間借り上げ住宅の提供を検討しておられるのであれば,生活保護利用者の居住・移転の自由(憲法22条)を侵害することになると考えますが,いかがですか。
また,ただでさえ生活保護に対するスティグマが強い中で,このように囚人のような扱いをすれば,さらにスティグマを強めることになると考えますが,いかがでしょうか。


6 具体策4.「働ける層(稼働層)の自立支援」等について

(1)貴党のご主張
「働くことが可能な受給者(稼働層)に自立支援プログラムを提供し,就労の指導強化,義務化を進めます。同時に,自立時資金のための「凍結貯蓄」を制度化し,働く意慾を高め,国や自治体等も単純事務作業,清掃等の働く場を生活保護者に提供します。また,生活保護に至る前段階の「自立支援プログラム」を充実させ,個別の状況に応じた支援を行います。」

(2)
質問事項

① 凍結貯蓄制度を導入した場合,現在の就労に伴う控除(基礎控除・特別控除)は廃止するということでしょうか。これらの控除には就労へのインセンティブとしての機能が期待されているとともに,就労することによる経費増(通勤用の衣類購入等)に見合うものとされています。これがなくなると最低生活を割ることになり憲法25条違反になるとともに,かえって就労インセンティブを削ぐことになると考えますが,この点はいかがお考えでしょうか。

② パート就労で足りない部分を生活保護で補っている世帯については,完全に経済的自立が図れる場合が少ないですが,そのような世帯の凍結貯蓄はどのように扱うのでしょうか。仮に,預かりっぱなしということであれば,完全な就労自立が困難な多くの世帯においては,結局において就労インセンティブとならない結果となりますが,この点はいかがお考えでしょうか。

③ 「凍結貯蓄」とは,実務上どのような仕組で行う予定でしょうか。「貯蓄」である以上,本来,被保護者本人に管理権があると考えられますが,これを福祉事務所が管理することの法的根拠はどこにありますか。また,管理する福祉事務所の事務負担増が予想されますが,この点は どのように考えますか。

④ 公的就労の提供についても指摘されていますが,ここで保障される公的就労の賃金水準は最低賃金を上回ることを想定されていますか。仮に,最低賃金を満たさなくてもよいと考えている場合,これを合理化する理論的根拠は何ですか。
就労にあたっての自己決定権(当事者の適性や希望の尊重)は,どのように保障されるのでしょうか。


7 具体策5.「調査権限の強化で不正受給を防止」等について

(1)貴党のご主張
「生活保護者を支援するケースワーカーの業務が繁忙化し,不正受給や生活保護の長期化を招いています。ケースワーカーを民間に委託し,ケースワーカーを稼働層支援に集中させることを進めます。また,地方自治体の調査権限の強化などで,不正受給や「貧困ビジネス」を減少させます。」
世耕議員はテレビ等において,「扶養義務の強化のため一定の資産・収入のある「特定扶養義務者」については扶養できないことの証明義務を課し,虚偽申告には罰則を科す法改正を検討中」と発言


(2)
質問事項

① 単純に民間に丸投げするだけでは却ってケースワーク機能が低下することが予想されるので,正規職員の増員と専門職化が必要と考えますが,いかがでしょうか。

②「特定扶養義務者」の「一定の資産・収入」とは具体的にどのような基準を考えておられますか。
求められる扶養の程度は,扶養義務者の家族数や扶養権利者である被保護者との関係(交流の有無,DV・虐待歴の有無等)等にもよりますが,この点はどのように考慮するのですか。

③ 同じ収入がある世帯でも家族構成,住宅ローンの有無,貯蓄の有無等々で扶養可能な金額が異なります。扶養義務者に扶養できないことの証明義務を課すこととすれば,例えば,月2万円の仕送りなら可能と回答した場合,仕送り額を2万5000円あるいは3万円にできないことの証明を求めることになります。
扶養義務者が,そのような証明をすることも,福祉事務所が,証明内容の是非を判断することも事実上不可能と考えますが,いかがでしょうか。

④ 扶養義務者に上記のとおり事実上不可能な事項の証明義務を課すということは,結局において,扶養を保護の要件とすることにほかならず,前近代的な救護法時代の法制度に戻ることとなりますが,貴党としては,それで良いとお考えですか。

⑤ そもそも民法上,扶養義務の程度は第一次的には当事者の協議により,当事者の協議によって決せないときには家庭裁判所がこれを決するものとしており,生活保護法77条も同様の構成を採用しています。
貴党の見直し策によれば,民法上の扶養義務の在り方も「改正」することが必要と考えられますが,そこまでお考えなのでしょうか。
仮に民法改正までは考えていないとすれば,生活保護受給者についてのみ異なる考え方を採用してもよいとする理論的根拠はどこにありますか。


8 具体策6.「就労可能者の区分対応」等について

(1)貴党のご主張
「中期的な取り組みとして,就労が困難な高齢者・障害者と就労可能者を 区分し,就労可能者には就職あっせんを拒否した場合の給付減額の仕組みや,就労可能者は3年程度で給付を打ち切る「有期制」の導入等も検討します。一方,生活保護世帯の子どもの教育や家庭環境等を改善し,貧困の連鎖を防止していきます。」

(2)
質問事項

① 期間の経過のみによって給付を打ち切ることの合理的根拠はどこにありますか。
厚生労働省も,生存権を保障した憲法25条違反になるという見解を示していますが,いかがお考えでしょうか。

② 就労可能とされ給付期間内に就労できず、生活保護を打ちきられた方は、その後の生活・生存がどうなるとお考えでしょうか?

③ 就職あっせんを拒否した場合の給付減額の仕組みが検討されていますが,仮に仕事があっても,生活保護利用者には,仕事に求められる資格や技術,学歴,職歴などが満たされないことによるミスマッチがあってなかなか就労に結びつかないのが実態です。このようなミスマッチの解消はどのようにして保障されるのでしょうか。


9 施策の目的について
(1)貴党のご主張
「上記施策の実施により現在の年間3.7兆円の生活保護予算を大幅削減」

(2)
質問事項

① 貴党は,結局,財政目的のためには生活保護利用者やその家族の人権は侵害されてもやむを得ないという立場に立っておられるということでしょうか。

② 貴党が政権党であった時代の社会保障費毎年2200億円削減方針下において,北九州市で生活保護をめぐる餓死事件が3年連続で起きるという悲劇が起こりました。今般の貴党の政策が現実のものとなれば,餓死・孤立死・自殺・犯罪が激増するのが必至と考えますが,この点はどのようにお考えですか。
仮に,こうした悲劇的事態が現実化した場合,貴党はどのように責任をとられるおつもりですか。

以 上

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