私たちは広がる“貧困”に、もうガマンできません。

貧困当事者への中傷に抗議し、相対的貧困への理解を求める声明

  • 2016年08月31日
  • 投稿者:反貧困ネットワーク
  • カテゴリー:声明・提言

2016年8月31日

貧困当事者への中傷に抗議し、相対的貧困への理解を求める声明

反貧困ネットワーク

2016年8月18日にNHKで放送された「子どもの貧困」に関する特集番組について、参議院議員の片山さつき氏が自身のtwitterアカウントにおいて、ネットニュースのリンクの引用リツイートの形で、いくつかの発言をしました。
私たちは、この発言が貧困問題への誤った認識を拡大し、貧困状態にある未成年の当事者を侮辱するものであると考え、抗議するものです。

片山氏の発言は以下の通りです。

「拝見した限り自宅の暮らし向きはつましい御様子ではありましたが、チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思い方も当然いらっしゃるでしょう。経済的理由で進学できないなら奨学金等各種政策で支援可能!」

https://twitter.com/katayama_s/status/766895331401347072

「追加の情報とご意見多数頂きましたので、週明けにNHKに説明をもとめ、皆さんにフィードバックさせて頂きます!」

https://twitter.com/katayama_s/status/766913949526659072

「私は子ども食堂も見させていただいてますが、ご本人がツイッターで掲示なさったランチは一食千円以上。かなり大人的なオシャレなお店で普通の高校生のお弁当的な昼食とは全く違うので、これだけの注目となったのでしょうね。」

https://twitter.com/katayama_s/status/766986221893541888

国会議員が上記のようなツイートを行うことは、「貧困」への無理解を拡大しかねない非常に重大な事態と考えます。

「貧困」という言葉からは、飢えてしまう、住むところがない、着るものがなくて凍死してしまう、などのすぐさま生命の危険がある「絶対的貧困」をイメージする人が多いと思います。しかしながら、その社会の標準的な生活を十分に送ることができない状態にあることも貧困と呼ぶべきです。それを「相対的貧困」と呼びます。所得が真ん中の人の半分に満たない人の割合を指すのが「相対的貧困」です。日本を含む先進諸国ではこの「相対的貧困」を貧困の指標にしており、日本の「相対的貧困率」は、16.1%と公表されています(2012年厚労省「国民生活基礎調査」)。

同調査によれば、貧困ラインは2012年時点で単身だと122万円/年(等価可処分所得)であり、月に約10万円しか使える所得がない計算になります。2人世帯だと173万円/年(月に14.4万円)、3人世帯だと211万円/年(月に17.6万円)、4人世帯だと244万円/年(月に20万円)という数字になります。つまり、日本では、この水準以下の生活をしている人が「貧困状態にある人」であり、そういう人たちが16.1%いるということです。そして、子どもの貧困率は16.3%、シングルペアレント(母子・父子家庭)の貧困率は54.6%と、非常に高い数字となっています。これは、日本政府が公式に発表している数字です。
日本の「相対的貧困率」は1980年代後半から右肩上がりに上昇を続け、貧困ラインは1997年をピークに下降を続けています。貧困ラインが下降し、貧困率が上昇しています。それはすなわち、日本の「貧困」が爆発的に拡大していることの証左でもあります。

「貧困」と聞くと、収入がなくなってしまうこと、働けない状態をイメージしがちですが、日本で(先進諸国で)一般的に「貧困」といった場合は、例えば、働いているが非正規労働で低所得である、家族の介護などで満足に働けない、低年金で生活を維持するのが大変などのさまざまな背景や事情を抱え、所得が低い状態で生活している人たちのことを指します。一見、普通の生活を送っているように見えても、生活は困窮しており貧困状態にあるということです。
片山氏の発言は、このことをまったく理解していないものでした。社会の中にある貧困への無理解をさらに拡大する無責任な発言は重大です。

2013年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が全会一致で成立しました。与野党を超えてすべての国会議員が賛成し、子どもの貧困対策を行うべく、制度が少しずつですが整いつつあります。民間の取り組みとしても、「子ども食堂」と呼ばれる活動が全国に300カ所とも言われるほどの広がりを見せ、すべての子どもに学校給食の給食費の徴収をなくし無償化する自治体も100を超えたなどの報道もあります。爆発的に広がる貧困への対策としては十分ではないながらも、貧困をなくそうという官民の取り組みが始まっています。
片山氏の発言は、貧困の拡大に対するこのような官民の取り組みにもブレーキをかけかねないものです。

さらに、片山氏が貧困報道をバッシングしていることも見過ごすことができません。日本における貧困の存在は、長らく「ないもの」とされてきました。広がる貧困を背景に、ようやく困難な中でメディア関係者の努力によって貧困報道が広がってきました。日本の貧困の拡大を知らせるうえで、こうした貧困報道は重要な役割を担っており社会的にきわめて重要です。片山氏は、貧困報道の内容をバッシングしNHKと「面会」までおこないました。これは貧困報道に対する重大な圧力とも言えることであり決して許されることではありません。

片山氏の発言は、2012年にお笑い芸人の母親が生活保護を利用していたという、まったく違法でもなんでもない事例について、メディア等でバッシングが吹き荒れたこととを想起させるものでした。貧困状態にある未成年の一市民に対して、国会議員が間違った認識にもとづいてバッシングするということはまったく異常な行為であり、勇気を出して出演された彼女に対する侮辱であり、到底許されることではないと考えます。

片山さつき氏による今回の発言は、以上のように、さまざまな問題をもつものであり、反貧困ネットワークとして厳しく抗議するものです。
また、今回のいわれなき攻撃によって、報道機関において貧困報道の現場が委縮するようなことや、ようやく始まりつつある政府の貧困対策が縮小されるようなことがないことを強く求めるものです。

反貧困ネットワークは、「貧困をなくしたい」と願うすべてのみなさんとともに、さらに活動を前進させる決意です。

以上

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